以前から名前は知っていた街に訪れる。
キャリーバッグの音をガラガラと響かせながら、その街を歩く。
地名という単なる固有名詞に出来事が、意味が付与されていく。ワイン風味のビールを飲むことで。歯ブラシや髭剃りといった日用品を購入することで。1鍋7役という過剰な役割を期待されている鍋を笑うことで。結局クリスマスには飲まれずにロゼスパークリングを冷蔵庫に置きっぱなしにすることで。クリスマスの飾り付けをクリスマス当日に探すことで。晩御飯を作るためにまだ慣れていないスーパーをさまようことで。
その街の名前をそっと誰にも聞こえないくらいの大きさの声で口に出す。一文字一文字、丁寧に。きっとその響きは以前の響きとは異なるものになっているはずだ。
そんな風にして、これからも固有名詞に意味を付与していく。意味が付与されていく。来年はどんな固有名詞にどんな意味を付与していく/がされていくのだろう。
もう終わってしまったけれども、あえてもう一度、また今年も意味が付与された固有名詞を口にしよう。
メリークリスマス。
新幹線に乗り込む。もうすぐ見知った街に着く。